今日は第3楽章について。
3楽章は「ブルレスケ」の音楽です。これは「
道化」という意味で、ユーモアや辛辣さを持ったふざけた性格の楽曲を指します。他の作曲家で例を挙げるならショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番の第4楽章などが典型的なブルレスケです、冒頭の3分だけ聴いてみましょう。
◆ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番 第4楽章(冒頭)
ブラウンシュタイン(Vn)/ビシュコフ指揮/ベルリンフィルマーラーは第3楽章に「
アポロのわが兄弟へ」という標題を書いています。愛好家の方は「マーラーの14人の兄弟(7名は幼少時に死亡)、あるいは自殺してしまった弟のオットーのことだろうか」なんて妄想しそうですが、どれも違います。この「アポロの兄弟」とは
マーラーの同僚たちを指しているのです。
その点を踏まえた上で表題を改めて見ると、親友や仕事仲間の栄光を称えたり、応援する曲になっているのではないかと誰もが想像するのですが、実際に聴いてみるとなんだかそんな雰囲気の音楽ではないとすぐに分かると思います。きっと多くの人が「あれ?」と思うでしょう。
音楽的に見てもまずブルレスケであるという時点でおかしいし、冒頭には「
sehr trotzig(きわめて反抗的に)」という指示すらあるのです。同僚に対する好意的な印象は微塵もありません。…とここまで書いただけで賢明な方はもうお気付きでしょう。
そう、これは
大嫌いな同僚への「皮肉」なのです。
日本のバレンタインデーに例えるなら、嫌いな同僚や上司に「いつもありがとうございます!手作りチョコです!」といって「呪」とか「怨」とか書かれたチョコをあげるような感じでしょうか。そんなシチュエーション実際にはないと思いますが、そういうことが出来てしまうのが音楽なんですね。そう思えばほら、2楽章と同じようにこの曲が身近に感じられるでしょう?(笑)
これは「
人生の闘い(嫌いな人間)への告別」とでも言うべきでしょうか。マーラーが気難しい性格であったのは有名で、誰にでも良い顔をするタイプではなかった上にオーケストラのリハーサルでの態度も高圧的だったので人間関係はあまり良好なものではなかったようです。私個人的には仕事仲間だけでなく、アルマに手を出した男たちへの皮肉も込められているように感じますが…真実は闇の中です。
◆マーラー 交響曲第9番 第3楽章
バーンスタイン指揮/ウィーンフィルハーモニー管弦楽団Part 1
※動画のPART1の
5:38〜トランペットに始まる穏やかな部分は、後に続く終楽章の主要メロディと同じもので「伏線」のような形をとっています。
Part 2
次回はいよいよ最終回です。
【特集】マラ9を聴こう(全6回)・第1回「
終楽章から聴いてみよう」
・第2回「
沈黙のすすめ」
・第3回「
思い出は甘美で残酷である」
・第4回「
人は社会に踊らされ」
・第5回「
前略、大嫌いな貴方へ」
・第6回「
マーラーは人間である」
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